『「永遠の初心者を脱する!」ための競馬思考』前書き

 競馬ファンの中には「永遠の初心者」と呼ばれる人種が存在します。
 簡単にいえば、競馬をずっと観ていて、競走馬や騎手、調教師の名前や技量、競馬場のコースの特徴、血統の知識、展開の重要性、競馬の格言、ドラマ性……、などについてよく知っている。
 にもかかわらず、馬券となるとからっきしで、毎年マイナス収支を計上する、もしくは、収支を付けておらず「トントンくらいかな」「多分勝っている」と口にするような人たちの総称、だと思ってください。厳密な定義はありません。
 タイトルに惹かれて本書を手に取った人の中にも少なからずいるでしょう。
 あなたの周りにもいないでしょうか?
 悪いことでも恥ずべきことだとも全く思いません。

 競馬で年間回収率プラスの人は5%程度だと聞きます。
 テラ銭の25%(券種によって多少変わりますが)が莫大すぎて、いくら競馬に詳しくても負けて当たり前の世界なのです。
 負けるのが当たり前すぎて「競馬は趣味だから」「競馬はスポーツだから」と口にするような人も少なからずいることでしょう。
 もし、競馬に詳しいという理由で勝てるなら、新規のファンも増えないでしょう。負けることが確実なギャンブルに足を踏み入れる人はよほどの変わり者か、変態です。そうは出来ていないところに、競馬の永続性があるのだと思います。競艇や競輪やオートレースなどの他の公営ギャンブルは知りませんが、上手く出来ているなと感じます。

 個人的に、競馬は麻雀に似たギャンブルだと思っています。
 技術のある人も運が悪くて負けることもありますが、長いスパンで見れば、実力差がはっきり出る賭け事、それが競馬。
 競馬同様、麻雀も長年やっていても全く上手くならない人がいるでしょう。反対に、そう長くやっていなくてもプロ並みの腕前になる人がいます。本気度とセンス、の差かもしれません。
 競馬と麻雀で大きく違うのは、競馬には馬券で勝てなくても人を満足させる要素が多すぎる、ことだと思っています。
 麻雀はせいぜい、仲間内で打って喋って「あー、負けたけど楽しかった!」くらいで終わるのが多数派ではないでしょうか。「あの打ち手は神懸かっていた」等と振り返って楽しむこともあります。まさかアカギのように命を賭けて、の勝負をする訳でもない。
 あ!
 漫画やアニメを楽しめる、というのも魅力の一つになりますね。

 では、競馬が人を満足させる要素にはどのようなものがあるでしょうか?

 予想自体が楽しい、というのがまずあると思います。
 私は小学生の時、ダビスタの影響で本物の競馬にハマりましたが、リアルで馬券を買ってもらった(もう時効だから書きます)のは、ダンツシアトルの勝った宝塚記念でした。
 これだとピンと来ない人がいるかと思いますが、ライスシャワーが淀に散ったあの宝塚記念です。 帯広在住だった私ですが、当時、帯広では中央の馬券が買えず、ウインズのある釧路まで車で二時間以上かけて向かいました。
 その車内で競馬新聞「1馬」(名称が変わって今は「優馬」になっています)を穴が空くほど耽読しました。
 約二時間の間、飽きもせずに延々と予想をしていました。
 迷いに迷った末に決断した馬券は、1、3、5の枠連ボックス。

第36回宝塚記念(G1)

 どう予想したか?
 今ならこのレースで絶対にしない予想方法ですが、距離適性を重視したのです。当時は、距離適性というのが過剰ともいえるくらい重要な予想ファクターだったように思います(ちなみに、距離短縮、距離延長、ではありません。各馬の距離適性です)。
 2枠にはエアダブリンとトーヨーリファール。
 エアダブリンは天皇賞(春)で一番人気になった馬で、ステイヤーズステークスも勝っています。2200mは短い、と判断して切りました(その後、天皇賞(春)同日、長期休養明けのメトロポリタンステークスで馬連を取らせてもらいましたが、エアダブリンは中距離馬だった、というのが今思うことです)。トーヨーリファールは人気がなさすぎ、という理由だけで切り、です。
 8枠にはライスシャワーを筆頭に、インターライナー、フジヤマケンザンという来て不思議ない馬がいて、心情的には買いたい枠でしたが、ライスシャワーには不向きな距離という理由で切りました。
 一番人気のサクラチトセオーが入った3枠は絶対に切れません。というのも初心者ですから、一番人気の馬は強い、と思い込まされていたのです(こういう思い込みは割と普通のようです。昔、友人に「今日本で一番強い馬は?」と聞かれて「ヒシミラクル」と答えました。勝利したG1での単勝人気を教えると「そんなに人気ない馬が強いの?」と疑問が返ってきました。人気=実力、ではありませんよね)。
 馬券は、1枠のダンツシアトル、3枠のサクラチトセオー、5枠に入った前年の天皇賞馬ネーハイシーザー、に期待して買ったということになります。一点1000円で、計三点で3000円の勝負です。小学生ですから、それなりの金額での勝負でした。

 結果は、ダンツシアトルの勝利。
 二着には、ネーハイシーザーの保険程度に思っていた同枠のタイキブリザードが来て的中。小学生が払い戻し機前によく並んだなと思いますが、自分で的中馬券を挿入して払い戻しました。

 この宝塚記念、今ならトラックバイアスを重視して予想するでしょう。
 阪神大震災の影響で阪神から京都の代替開催となりましたが、内の馬場が良くてグリーンベルトが出現していました。今、買うならどう考えても最内の絶好枠を引いた先行馬ダンツシアトルになると思います。
 また、今の時代なら追い込みのサクラチトセオーは一番人気になっていないでしょう。
 丁度、サンデーサイレンスの初年度産駒がクラシック路線で旋風を巻き起こしていた年に競馬を始めた私ですが、当時と今では競馬ファンの馬券の上手さにかなりの差があります。今の競馬ファンは驚くほど上手いなと感じています。これに関しては、別のところでまた詳しく書きたいと思います。

 競馬の魅力。
 続いて、レース観戦の魅力があると思います。
「好きなレースを一つ挙げるならば?」と問われた時、私が真っ先に挙げるのが2008年の天皇賞(秋)、ウオッカとダイワスカーレット(と、少し遅れてディープスカイ)の死闘です。
 ディープスカイの単勝を握り締めながら札幌のウインズで観戦していましたが、馬券が外れたことなどそっちのけで「何、あの牝馬!?」と大興奮で、一緒にいた友人にまくし立てていました。
 当時はまだ中長距離で牡馬相手に通用する牝馬が少なかった上に、牝馬の逃げ馬といえば一本調子の単調な馬が多く、差し返す根性があるなんて想像の範疇を超えていたのです。外れても満足出来るレースがある、と自覚的になったのもこのレースがきっかけでした。

第132回天皇賞(秋)(G1)

 ドラマ性もまた競馬の魅力でしょう。
 競馬を文学化したのは寺山修司だと聞いたことがありますが、私が競馬を始めた時から名馬列伝の本やテレビ番組は盛んでした。
 アラブの魔女、と称されたイナリトウザイを知っていますか?
 イナリトウザイはあまりに強すぎてテンプラ疑惑があったそうですが、そもそもテンプラという言葉の意味を知っていますか?
 本当はサラブレッドなのにアラブだと偽って登録された馬のことです。そうすれば、基本的に弱いアラブと競走することになり、賞金を稼ぐ可能性が高まる、という理由で昔は盛んに生産されたと言います。
 まだDNA型検査の技術が導入されていなかったから可能だったのでしょう。サラブレッドの血統は一応、全て血統表に記されてはいますが、きっと本当の血統は違う、という馬も今、現役で走っていることでしょう。ミステリーを感じます。

イナリトウザイ

 人馬一体、のドラマも魅力があります。
 私の中では、キーストンの悲劇、が思い出深い(といっても生で観ていた訳ではもちろんなく、本で読んだだけですが……。伝え聞いただけでも心に残るのが競馬のドラマ性の深さだと思います)。 阪神大賞典で、ダービー馬キーストンがゴールまで300mというところで故障しました。
 鞍上の山本騎手も落馬して脳震盪を起こしてしまいます。キーストンも左前脚を故障して三本脚でしか歩けない状態の中、山本騎手を心配して近づき、鼻を近づけて気遣うような素振りを見せたのです。
 結局、キーストンは予後不良となりますが、この時の山本騎手は私の中では名伯楽としての方が印象深いのです。
 そうです、マイシンザン、レギュラーメンバー、(個人的に大好きだった)ブレイクタイム等を手掛けた山本調教師で、弟子の松永幹夫とヘヴンリーロマンスのコンビで勝った天皇賞(秋)は有名かと思います。天覧競馬で、馬上からのミッキーの最敬礼は本当に絵になりましたよね。
 松永幹夫も調教師となり、きっとまた新たなドラマを作っていくのでしょう。

キーストン

 ……こんな終わりのないドラマが続くのですから、一度、競馬に浸かってしまったら辞められる訳がありません。
 たまに競馬で不祥事があると「馬券買うのもうやめる」といったコメントがネット上に出現しますが、無理無理無理、それ以上ある魅力に抗える訳がない、と思って見ています。
 ドラマや応援も面白い。
 ですが、馬券も当たればもっと面白い、のが競馬でしょう。

 先のヘヴンリーロマンスの勝った天皇賞(秋)ですが、もう一つ、私的なドラマがありました。
 三着に十三番人気のダンスインザムードが入ったのですが、私の本命でした。
 ダンスインザムードが十三番人気!? と感じる人もいるかもしれません。この時のダンスインザムードはおそらく精神的な問題から人気を裏切る惨敗続きだったのです。
 本命に出来た理由は、前走の府中牝馬ステークスで最後方からレースをして最速の上がりを使った。最後までしっかり走ったことがショック療法となり、復活するだろうと読んだのです(競馬王を読んでいたので「ショック療法」の存在は知っていましたが、これは「Mの法則」という馬券術の用語だと先日知りました)。
 確か二着ゼンノロブロイとダンスインザムードの三連複二頭軸だけだったので、計1000円ちょっとしか買っていなかったと思います。その内の100円が141100円に化けた上に、自分の予想が具現化するのですから辞められません。

第132回天皇賞(秋)(G1)

「あらゆる競馬予想は妄想だ」と言い換えることが出来ると思っていますが、妄想が現実になる快楽と言ったら……。
 しずかちゃんの入浴を日々妄想しているのび太が、どこでもドアのおかげで現実化することが出来た、と言えば、分かりやすいでしょうか、それとも分かりにくいでしょうか……。
 もう少しエッチなことを考えていただいても結構です。
 とにかく、妄想が現実になった時の快楽は凄まじいものがあります。
 色んな宗教で予言者が重要な役割を担いますが、予言成就は人間の普遍的で根源的な欲望なのでしょう。

 もしそうであるなら、馬券で勝たない手はありません。
「永遠の初心者」を脱して、勝利を手にしましょう。
 かくいう私も「永遠の初心者」を自覚しています。
 競馬で勝つには、ムキにならない、自信のないレースを買わない、などのメンタル面が重要ですが、私に圧倒的に欠けているのがその点です。
 それさえ抜きにすれば……、少しは勝つ自信があります。
 もしよろしければ、私のブログをご覧ください。自分ではなかなか良い線を行っているだろうと自認しています。 

magumagumagu.com

 長い前置きになりました。
 本書を書こうと思ったのは、今まで競馬予想本を多数読んできて、満足出来る質の本が非常に少ない、内容の割には値段が高い、という理由からです。
 もちろん、競馬予想本に良書は沢山ありますが、予想ファクターが限られているものが多い。たとえば、騎手なら騎手だけ、馬場なら馬場だけ、というパターンで、これは幅広い予想ファクターのある競馬だから一概に批判出来ません。が、自分で考えるのを邪魔するような類のものも少なくありません。
 たとえば、○○騎手は中山1200mの回収率が高い、のようにデータだけ提示する本です。
 個人的には害悪しかないと思っています。
 そもそも、target(JRA-VANデータラボの不動の人気ナンバー1ソフト。本書でも利用を強く推奨するので、導入予定が全くない方は本書を読まない方が良いと思います)を導入すれば自分で調べられるような内容ばかりだろう、という点が一つ。
 データはすぐに変わる、という点が二つ。
 ロジカルがないデータに意味はない、というのが三つ。

 ロジカルはデータに勝ります。
 競馬に関しては、これがどうしてか逆転している、と疑問を呈している競馬本(※『レース質マトリックス』立川優馬著)がありましたが、尤もだと思います。
 中山ダート1200mが外枠有利なのは有名ですが、どうしてでしょうか? 芝の部分を長く走れるのと、砂を極力被らなくて済むという理由、からでしょう。そのロジカルな面が競馬では蔑ろにされていると立川氏は主張しているのです。
 揉まれにくいという理由から基本的にダートは外枠有利ですが、中山ダート1800mもその例に漏れません。
 ところが、実は昔(15年前くらいでしょうか)、「中山ダート1800mは内枠先行有利」とJRA-VANのコース解説に書いてあったのです!?!? 当時、まさか天下のJRA-VAN(JRA公式ですよ!?)が嘘を書くはずもないと思い、内枠の逃げ馬ばかりを買っていた私は一体……、と虚しくなりました。
 ロジカルを知らなければ、こういうことが起こり得るのです。

 外枠有利の中山ダート1200mでも内枠有利になる場合だってごく普通にあります。
 スローで外を回すロスの方が大きくなれば、内枠から内を通った方が有利になりますし、そもそも砂を気にしない馬もいます。また、大雨で芝とダートの走りやすさが逆転してしまえば、内枠有利になると考えられます。
 以上はロジカルで語ったものですので、是非、本当かどうか機会があれば検証してみてください。

 ロジカルの確認がデータであり、その逆では決してありません。
 本書に「思考」と名付けたのは、道具を利用しつつも自分で思考することを促したい、という理由からです。

 2010年、ダノンザキッドの勝った東スポ杯2歳ステークスの前、このレースは過去10年で1枠が好成績だと教えてくれた方がいます。
 東京芝1800mはスタートしてすぐ2コーナーに入るからそうなるのかな、と思いました。と同時に、このデータは2010年に限っては当てはまらないだろうともすぐ感じました。というのも、この年は芝の内側が悪く、大半の馬が内を避けて走っていたからです。
 結果は、途中から逃げたレインフロムヘヴン、1枠1番のドゥラヴェルデが内を通りましたが、伸びを欠いて惨敗しました。敗因は進路取りとは別のところにあるでしょうが。
 この例だけ取ってみても、ロジカルが分かれば通用しないデータに騙されなくて済みます。

第25回東京スポーツ杯2歳S(G3)

 エピファネイア産駒がデビューしてしばらく、単複ベタ買いで回収率100円を大幅に超える時期がありましたが、今ではもうそのデータは通用しなくなっています。
 データはすぐに古びます。

 思考(ロジカル)は、思考する力がある限り、古びません。
 もし、思考が間違っていても修正は可能ですし、トライアンドエラーの繰り返しが馬券力の向上につながるのは私が保証します。

 スピード指数を主なファクターに用いている私は今年、年間回収率100%を目標に掲げました。 一月はかなり負けていましたが、すぐにダートだけならプラスだと気づきました。ダートでも未勝利戦はスピード指数が機能しにくいと気づいて勝負レースから外すことにしました。それでも負けてきたため、買い方を期待値重視に変えることで巻き返しました。
 大勝ちしたらしたで、メンタル面の問題が噴出、レートを下げられなくなって困っています。 芝・ダート問わず、馬の適性が分かりやすい上級クラスの方が成績が断然良いことにも気づいています。オープンクラス以上に限れば、すでに年間プラスは確定したも同然の成績を挙げています。

 偉そうなことを書いていますが、こうして本として綴ることで強制的に思考することになります。私が読者の皆様と共に学んでいきたいという所存であります。

 予想ファクターは極力、幅広くカバーしたいと思っていますが、分からないことは分からない、分かる範囲のことだけしか書けません。
 自分では実践出来ない、また、実践するつもりもないが、人に伝えることは出来る、ということもあります。競馬本を読んできたからこそです。
 それを説得力がないと思うか、ロジカルだと思うか、は人によって分かれるところだと思いますが、後者であることを願っています。
 本書の終わりには「永遠の初心者」を卒業出来ていることを祈って。

 まぐ