『「永遠の初心者を脱する!」ための競馬思考』2 ロジカルとデータ

 本書を書き進めるにあたって、競馬歴30年近い私がどうして「永遠の初心者」のまま過ごしてきたのか、どう学んできて、今、どういう予想スタイルなのかを共有事項にした方が話を飲み込みやすいかと思います。
 また、競馬の共通言語にも人によって使い方が違う場合が少なからずあります。
 この点も含めて確認していきましょう。

 私を「永遠の初心者」たらしめてきた最大の元凶は、競馬新聞にある、と言って過言ではないでしょう。もちろん、悪いことばかりではなく、功罪があります。

 競馬新聞の予想印に目を向けて見ましょう。
 各記者・本紙の◎○▲△、これらに加えて、×☆注などが並んでいる新聞もあります。
 ところで、この印をどう自分の予想に活かせば良いのでしょうか?
「ひいきにしている予想家が本命だから……」という活用方法はあるでしょうが、そもそも各記者の予想の独自性にまで目を向けるように作られているでしょうか?
 そう出来ているようには全く見えません。
 予想印にはロジカルが欠如しているのです。

 昔から私は「人気の目安を測るものでしかない」と思っていました(今では競馬新聞の予測オッズもほとんど当てにならない時代になりましたが)。
 また「当日の馬場状態も分からないで付けた印に何の意味があるのか」とも感じていました。
 ここで言う馬場状態というのは、良・稍重・重・不良、の一般的な四分類もありますが、内が止まらない・外差しが決まりやすい、などのトラックバイアスも含めてのものです(「馬場差」という、より重要なファクターがありますが、ここでは触れません)。
 加えて、馬体重も分からなければ、パドックや返し馬で状態を判断することも出来ません。

 これだけなら競馬ファンが当日の傾向をチェックすれば済む話ですが、実はもっと重要なファクターが無視されているのです。
 競馬新聞社は枠順が決定する前に印を提出しなければならないと言います。そうでなければ、印刷が間に合わないそうです(とある方のツイキャスで知りましたが、確認のため、『馬券師・半笑いの遺言』に目を通してみましたが、全く同じことが書いてありました)。
 予想ファクターの中でも重要な部類に入る枠順の決定前に印を打つというのは驚くべきことでしょう。
 考えてもみてください。
 外枠が圧倒的有利な新潟芝1000mで、枠順も分からずに付けた印に意味があるのかどうかということを。
 昔と比較すれば、今は競馬新聞がオッズに与える影響も小さくなりましたが、それでもまだ影響力を持っていますから新潟芝1000mはまだ外枠の回収率が高い、とロジカルに推測出来ます。
 ではこの推測が正しいかをtargetで調べてみることにしましょう。

 2018年年頭から2020年年末までの丁度三年間の、新潟芝1000m全ての結果です。

7枠 勝率8.7% 連対率17.5% 複勝率26.8% 単勝回収率110円 複勝回収率97円
8枠 勝率13.3% 連対率22.9% 複勝率34.6% 単勝回収率97円 複勝回収率101円

 運良く(?)非常に高い回収率が弾き出されました。今でも外枠のベタ買いでほぼプラスになってしまうレベルと言えるでしょう。

 このように当然、枠順と予想印の乖離は予想に活かすことが出来ます。
『馬券師・半笑いの遺言』では、芝では内枠の評価を上げて、ダート短距離では外枠の評価を上げる、と書かれています。
 内目の芝が荒れているなら、外枠の評価を上げるのも手になるでしょう。
 芝は内枠有利、ダートは外枠有利、が基本だと押さえておいてください。中京ダート1800mや京都ダート1800m等の一部のコースは最初のコーナーまでの距離が短い等の理由から内枠有利、外枠不利になりますが、あくまで例外として捉えておけば良いでしょう。

 他、競馬新聞の功罪の「罪」として挙げられるのは、調教欄の読み方の説明が欠けていること、と言えるでしょう。また、紙面の問題から前走の最終追い切りと今回の中間・最終追い切りしか載っていないのも問題です。
 調教欄のタイムを見て、すぐに速いか遅いか、分かるでしょうか?
 また、追い切り本数が多いか、少ないか、分かるでしょうか?
 分かる人はそれなりの知識がある人だと思います。
 私は恥ずかしながら、数年前、井内利彰氏著の『競馬に強くなる調教欄の取扱説明書』を読んで、ようやく調教欄の見方を覚えました。30年近く競馬をしていて、本当にようやく、です。
 この本は強くオススメしたい一冊ですが、その帯には「9割以上の競馬ファンが無視している調教欄こそ最強の武器だ!」と書かれてあります。
 9割、というのは今の時代では少し多すぎる気がしますが、それでもいまだに見ていない人が少なからずいるのは間違いないでしょう。

 私個人としては、調教中心の予想にハマった時期もありますが、今はそこまで重要視していません。
 まず、最近、netkeiba.comで速い調教時計には色が付くようになって、そういう色付きの時計を出している馬はやたらと過剰人気しているな、という「気がしている」のが理由の一つ。
 また、重賞の場合、相当悪い状態で出走してくる馬自体がそもそも少ないですし、映像を見ても私には判断出来ないからです。
 併せ馬で手応え優勢、劣勢くらいは分かりますが、これに関しては併せた相手によるところもあります。
 調教時計だけならある程度分かりますが、これも馬場の良し悪しで時計が左右されます。その日の調教がどのくらい時計が出ていたか、他馬と比較する必要が出てきます。私はネットの競馬新聞・馬三郎を利用していますが、それなら全馬の調教時計を知ることが出来るのでオススメです(プレミアムコースのみ。税込2724円です)。

 素人でも判断出来る有効な作戦だと感じているのが、追い切り時計が悪い馬を馬券から切る(ただし重賞に限る)、というものです。
 出現率は非常に低いのですが、その分、出現してきた時の飛ぶ確率はべらぼうに高い。

 近い例では、2020年の高松宮記念のアイラブテーラーでしょう。
 この馬、追い切りが良い悪い以前に、最終追い切りをせずに出走したのです。小倉2歳ステークスで最終追い切りをせず、というのは見かけたことがありますが、さすがに古馬のG1で見かけたことはありません。

第50回高松宮記念(G1)

 競馬の長い歴史の中で蓄積されたノウハウによって、ベストな追い切り日や負荷などが決まってきたはずです。
 浅見秀一厩舎のように、一週前にビシッと追い、最終は軽め、という独自のカラーがある厩舎もありますが、それとて緻密な計算があってのことでしょう。
 若き日の藤澤調教師が馬なり調教を始めた時、「どうしてあれで走るんだ」と真似てみた調教師がいたそうですが、結果的に上手くいかなかったそうです。藤澤厩舎は追い切り以外での運動量を緻密に計算した上で馬なり調教をしていたから、だと聞きました。追い切りは馬なりでも、馬には十分な負荷がかかっていたという訳でしょう。
 推測がかなり入っていますが、おそらくはそういう事情ですから、最終追い切りをせずに出走するという掟破りが通用するはずがないのです(連闘は除きます)。
 馬の状態が悪くて最終追い切りが出来なかったが、どうしても出走したい、という大人の事情があったと推測するのが、現実的な判断と言えましょう。
 来たら事故だと割り切る覚悟も必要です。
 私はこのようなタブーを侵した陣営・馬に、びた一文たりとも払うつもりがありませんでした。 

 結果は、一着から13.2秒も離された殿負けです。

 競馬ファンをバカにしている、と憤るのは簡単ですが、追い切りを最低限知っていれば買わずに済む話でもあります。アイラブテーラーが単勝10番人気33.2倍、勝ったモズスーパーフレアが9番人気32.3倍ですから、それに匹敵する人気を背負っていたことになります。
 追い切りを見ていない人がまだまだ多いんだなと分かる事象でもありました。

 地方交流重賞にはなりますが、ホワイトフーガのJBCレディスクラシックも酷い事例だと言えます。

第7回JBCレディスクラシック(G1)


 美浦坂路での最終追い切りが、一杯に追って、53.5-39.7-26.9-14.0、でした。
 追い切りを見る時、全体時計も重要ですが、ラスト1ハロンの時計も重要になります。最後まで余力があるか、バテて余力がないかの目安になるのです。馬なりなら遅い場合もありますが、一杯に追ってのものだとより参考になると言えるでしょう。
 この馬の14.0秒というのは完全に止まっている、と言って差し支えないレベルです。
 たまに「出るからには悪い状態で出てくるはずがない」と考える人がいますが、そんなことは全くありません。牝馬のダート路線はそもそも出走可能で通用するレースが少ない。地方交流重賞にもなれば、中央馬が出走するだけで賞金を獲得出来る可能性が高いため、状態が悪くても出てくるのです。
 これは別に牝馬のダート路線に限った話ではありません。
 下級条件でも、優先出走権があるから出る、という場合は少なくないでしょう。
 悪い状態で出走する訳がない、と考えるよりも、状態が悪くても出ておかなければ、次、いつ出られるか分からない、と考える方が自然なのです。

 話を戻しますが、ホワイトフーガは1.8倍の圧倒的一番人気を背負いながらも11着と惨敗、このレースを最後に引退しました。

 私の浅い経験上、重賞において酷い最終追い切りで来たのは、ラブカンプーのスプリンターズステークスだけ、です。
 栗東坂路で一杯に追って、54.8-39.9-26.0-13.6、併せたダイメイプリンセスに0.9秒も遅れていました。
 おそらく、追い切りの悪さがオッズにも反映されたのでしょう。それまでの実績を考えれば、11番人気31.7倍というのは明らかに付きすぎです。
 結果はファインニードルと同タイム、クビ差の二着でした。

第52回スプリンターズS(G1)

 ラブカンプーがこのレースを最後に、極度の不振に陥ったのは周知の通りです。
 馬に無理を強いると、その反動が大きいということなのでしょう。
 馬券も無理せずに適度にやって勝てるのが一番だと思います。
 レース映像を何度も見返す等、競馬予想に相当な時間を費やしている人もいて、私にはそこまでの熱意がないので尊敬に値しますが、個人的には、極力、時短を意識しています。

 というよりも、私は現在、ダートでスピード指数を主なファクターとして用いて予想していますので、そう時間のかかる予想をしていない、と言えるでしょう。
 スピード指数を確認する作業が第一、続いて、前に行くだろう馬、末切れる馬の確認作業が第二、です。
 これらをtargetに入力します。
 ここまでは自分で考える必要のない作業となります。
 レース映像を見ずに失敗していることが何度もあるため、極力、観た方が良いと感じていますが、半年くらいダート中心でやっていると、記憶を頼りにすればそれで済む場合も多くあります。観るにしても、スタートの出だけであったり、最後の直線だけだったり、の場合が多いです。

 競馬予想では「人と同じことをやっていては勝てない」と言われますが、私は人と同じ、とまでは言わないにしても、極めてオーソドックスな予想しかしていないつもりです。
 独自の予想に華があるのは承知ですが、とてもじゃないですが真似出来そうにありません。
 たとえば、馬場虎太郎氏の馬場読み予想、キムラヨウヘイ氏のプロファイリング予想、井内利彰氏の調教理論予想、トキタショウケイ氏のバイブス理論、亀谷敬正氏の血統ビーム……、などなど。

 華はなくても理に叶った予想をしていれば良い、そして、それで十分に勝てるだろうと今は確信しています。