『「永遠の初心者を脱する!」ための競馬思考』10 消耗戦について。

 瞬発戦・消耗戦、の話に移る前に、日本の馬場について少し振り返ってみたいと思います。

 近年、日本の高速馬場化がよく批判の遡上に上ります。
 どのくらい昔から批判されているか、ご存じでしょうか?

 私も詳しくは知りませんが、批判が相次いだレースは知っています。
 私が初めて馬券を買った1995年の宝塚記念です。25年以上も前から現在に至るまで、よくもまあ批判され続けるものだなと感じます。

 その宝塚記念は阪神大震災の影響で京都開催となりましたが、勝ち時計の2.10.2は当時の日本レコードでした。ライスシャワーの故障の原因がその高速馬場にある、と批判されたという訳です。
 宝塚記念施行前の京都競馬場では二週間で三つものコースレコードが出ていました。前日のメインレースの阪急杯でもバンブーユージンが故障して予後不良となりました。宝塚記念の出走馬も、勝ったダンツシアトル、3着のエアダブリン、14着のネーハイシーザー、殿負けのナリタタイシンの4頭がレース後、少し経過してから屈腱炎を発症したのです。

 JRAは高速馬場と故障の因果関係をデータを示して否定しています。私もほぼ関係ないと思っていますが、故障馬が相次ぐ特定のレースが存在することまでは否定しません。この時の宝塚記念も馬への負担が大きかった、と言えるかもしれません。

『競走馬の科学』(JRA競走馬総合研究所 編)という本には、競走馬は馬場の硬さや柔らかさに応じて走り方を合わせること、硬さが不均一な場合や馬場が凸凹している場合、事故につながりやすいこと、が書かれてあります。私の体感では確かに、高速馬場よりも極悪馬場で行われたレースの方が後の故障に繋がるケースが多いように感じます。

(調教捜査官の井内さんオススメの本です)

 なお、このJRA競走馬総合研究所は、サラブレッドのライフサイクル全般にわたる研究・調査を行っている機関だそうですが、競馬主催者団体が研究所を有しているケースは、非常に稀だとも書かれてあります。
 この経緯からも、JRAのことをもう少し信頼して良いのでは、とよく思います。

 心配すべきは、日本競馬のガラパゴス化だと思っていますが、それとて日本馬が海外で活躍しているのだから、そう懸念することでもないのかもしれません。
 なんたってディープインパクト産駒がヨーロッパで活躍するくらいです。これは私にとって少々意外な出来事なのですが、競走馬は生まれ育った地域の馬場に適応しながら成長していくのかもしれません。もしくは、産駒の地域適応力、とでも呼ぶべき種牡馬の能力があるのかもしれません。

 話を変えましょう。
 私が競馬を見始めた前年、三冠馬が誕生しました。
 ナリタブライアンです。
 名馬中の名馬、と言えますが、もし、この馬が現代に生まれ、育成されていたならば、持久力の怪物であるキセキのような個性派になっていたのではないか、と想像することがあります。

 その理由は、当時の馬場にあります。
 前項では、上がり35.7秒が瞬発戦と消耗戦の境目の目安になると書きました。ナリタブライアンが勝ったG1のレース上がりを見てみましょう。

朝日杯 36.8秒
皐月賞 36.1秒
日本ダービー 36.4秒
菊花賞 36.5秒
有馬記念 36.7秒

 彼の勝利したG1は、現在の基準で言えば全て「消耗戦」に当てはまるのです。

 では、ナリタブライアンの本格化後、負けたレースのレース上がりも見てみましょう。

京都新聞杯 34.7秒
天皇賞(秋)35.7秒
ジャパンカップ 35.3秒
有馬記念 35.3秒
天皇賞(春)35.1秒
高松宮杯 34.3秒

 京都新聞杯は仕上がりに問題があったこと、それ以降のレースは股関節炎の影響で本領発揮出来なかったことを承知で書いていますが、休み明けの天皇賞(秋)を除けば、現代基準でも瞬発戦に当てはまるレースばかりだったのです。

 また、ロベルト系のブライアンズタイム産駒、という血統面も彼が消耗戦向きだったことの証左と言えるでしょう(ロベルト系は消耗戦に強い馬が多いのです)。
 ブライアンズタイム産駒は、サンデーサイレンスの登場もあって成績をじりじりと落としていきましたが、それでも生産年度別の成績ではリーディング5位以内をキープしていました。
 ところが、出走頭数が101頭と最も多かった2003年度の産駒成績で、10位と、二桁まで成績を落としてしまいました。
 昔は加齢の影響で成績が落ちてきたのだと思っていましたが、馬場の高速化もその要因だった可能性は否定出来ません。

 1995年、サンデーサイレンスの初年度産駒タヤスツヨシの勝ったダービーは、スローペースだったこともあってレース上がりが35.2秒でしたが、これはダービー史上初めての35秒台になります。
 その丁度10年後の2005年、ディープインパクトの勝ったダービーのレース上がりは34.5秒で、初めての34秒台突入でした。
 そこから五年後の2010年、超スローの影響もありましたが、エイシンフラッシュの勝ったダービーではレース上がりが33.4秒まで速くなりました。
 このように数字を並べてみるとよく分かりますが、高速馬場化は年々進行してきました。

 現代競馬の主流は、瞬発戦、だと覚えておいてください。
 その要因は馬場だけではなく、血統面や複数の競馬場のコース改修などもあったにせよ、結果的に瞬発戦が主流に「なった」のです。

 消耗戦の方が少ない訳ですから、そうなりやすいレース、またはコースなどを覚えておく方が手っ取り早いと言えるでしょう。

 具体例を挙げましょう。
 消耗戦になりやすい典型的なビッグレースは、宝塚記念と有馬記念の両グランプリです。

 この二つのグランプリは、クロノジェネシス、リスグラシューと二年連続で春秋制覇した馬が出ているように、結果がリンクしやすい。少し前だとゴールドシップもそうでした。オルフェーヴルとドリームジャーニーの兄弟もそうです。

 近年、グランプリ連覇が増加傾向にあるように思いますが、これは決して偶然だとは思えません。今後も増えていくように思えます。
 (昔と違って)梅雨期に行われる宝塚記念が必然的に消耗戦になりやすいこと、他のG1が瞬発戦になりやすくなったこと(特に東京競馬場の著しい高速馬場化、阪神外回りのG1の誕生など)で、適性の差が一昔前よりももろに反映されやすくなったこと、がその理由です。

 まずは、過去10年の宝塚記念のレース上がりだけを単純に取り出してみることにします。

2020年 36.3秒 (クロノジェネシス)消耗戦
2019年 35.3秒 (リスグラシュー) 消耗戦(馬場特殊)
2018年 36.3秒 (ミッキーロケット)消耗戦
2017年 35.7秒 (サトノクラウン)消耗戦
2016年 36.8秒 (マリアライト)消耗戦
2015年 35.0秒 (ラブリーデイ) 瞬発戦
2014年 35.6秒 (ゴールドシップ)消耗戦
2013年 38.0秒 (ゴールドシップ)消耗戦
2012年 35.3秒 (オルフェーヴル)消耗戦
2011年 35.2秒 (アーネストリー)消耗戦

 単純に丁度半数の5年間がレース上がり35.7秒以上の「消耗戦」になります。

 注意点があります。
「消耗戦」と「瞬発戦」は明確な基準がある訳ではありません。
 グラデーションのようなもので、白黒はっきり付けられない場合も多いのです。
35.7秒というのはあくまで目安ということを忘れないでください。

 私の判定では、ラブリーデイの勝った年以外全て消耗戦に分類して良いと思っています。この年だけは、例外的に超スローペースになりました。2着に突っ込んできたのは、超スローのジャパンカップでも2着に追い込んできたデニムアンドルビーでした(この馬は「適性の幅が広い馬」で、タフな消耗戦も得意としていました)。
 アーネストリーの年はレコードが出たように時計の出る馬場でしたが、2番手追走のアーネストリーが消耗戦適性を活かしてレース上がりを引き上げただけと言えます。
 リスグラシューの年は馬場が極端に前有利の特殊馬場だったというのもありますが、これも2番手追走のリスグラシューの圧勝で、この馬がレース上がりを引き上げたものと見ます。大半の馬の上がりは36秒以上かかっています。

 レース上がりが目安でしかない理由は、阪神内回りの直線が短いため、後半、各馬が早めに仕掛けるロングスパート戦になる点も重要だからです(これは小回りコース全般に言えることです)。
 ロンスパ戦になれば、持久力を問われることになるため、レースの上がり3ハロンが速くても消耗戦寄りのレース質になると言えます。
 後半3ハロンだけでなく、全体的なラップ、特に後半5~4ハロン目も見る必要があると言えますが、詳しいラップの見方については別項に回します。

 とにかく、宝塚記念が消耗戦になりやすいと知っていれば、瞬発戦向きの馬を軽視することが出来ます。

 2020年の宝塚記念は適性の差がはっきり出たと言えるでしょう。
 1着クロノジェネシスは宝塚記念以前に、京都記念(レース上がり36.9秒)、秋華賞(同36.4秒)という消耗戦で圧勝していました。対して、瞬発戦になった大阪杯(同34.2秒)、エリザベス女王杯(同34.6秒)で負けていました。
 2着キセキ、3着モズベッロ、5着メイショウテンゲンも消耗戦好走歴が何度もある馬でした。
 4着サートゥルナーリアは超消耗戦になった有馬記念の2着があり、基本的には瞬発戦向きの馬でも適性の幅が広かった、と言えるでしょう。
 対して、6着のラッキーライラックはどちらかといえば瞬発戦向きの馬です。大阪杯(同34.2秒)とエリザベス女王杯(同34.6秒)での勝利を見れば分かります。
 そうはいってもこの宝塚記念は消耗戦向きの馬が多く出走していた点が予想をが難しくさせたとも言えるでしょう。

 近年、瞬発戦・消耗戦の適性を陣営もよく理解しています。
 たとえば、ステイゴールド産駒のステイフーリッシュは典型的な消耗戦向きタイプと言えますが、おそらく陣営もそれを理解した上でローテーションを組んでいるはずです。
「一銭でも多くぶんどる」をスローガンにしている矢作厩舎ですから、賞金を稼げないと踏んだレースには使ってきません。この辺りはさすがリーディングトレーナーだなと感じるところです。

 話を戻します。
 私は大阪杯で適性を見ていたため、ラッキーライラックは今回パフォーマンスを下げる、対してクロノジェネシスはパフォーマンスを上げてくるだろう、と読んでクロノジェネシス本命、ラッキーライラックを無印にすることが出来ました。
 結果は馬連のみの的中でしたが、3410円付きましたから十分な結果だったと言えるでしょう。

 一昨年の宝塚記念は外しました。
 後に超消耗戦になった有馬記念を圧勝したリスグラシューの消耗戦適性を読めなかった、のが大きな要因と言えます。
 しかし、今なら読むことが出来た、とも言えるでしょう。
 どうすれば読むことが出来たか?

 勝ち味の遅さ、から読み解くことが出来たのです。

 リスグラシューは宝塚記念を勝つまでは4勝馬でしたが、対して2、3着は合わせて12回もある馬でした。 
 シルバーコレクターと呼ばれたステイゴールドが代表例になりますが、消耗戦向きの馬はラストの切れ味に欠けるため、勝ち味の遅い傾向が強くなるのです。
 ステイフーリッシュは堅実に掲示板を確保する馬主孝行の馬ですが、まだ2勝しかしていません(2021年2月時点)。
 前述のキセキも菊花賞を最後にG1を勝てていません。
 モズベッロは毎回出遅れる展開待ちの馬ですが、やはり掲示板内までが多い馬です。
 芝のレースはどうしても最後の決め手が勝敗の分け目になる場合が多い。勝ち味の遅さ、は消耗戦向きの馬の大きな特徴と言えるでしょう。
 この点を押さえておけば、今後、リスグラシューのような馬を見逃すことは少なくなるはずです。

 今回はごく限られた話になってしまいましたが、消耗戦・瞬発戦の区分けは非常に重要ですので、今後も頻繁に語っていきます。

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