「余力ラップ」とは? その理論の基盤と基準ラップ

余力ラップとは?

余力ラップは、ラップタイムからその馬の余力を読み取り、過小評価されている強い馬を狙う手法。2〜3歳戦において、設定した基準ラップ(※)をクリアしている馬を狙うのが基本となる。基準ラップをクリアした馬に、①レース映像チェック、②今走条件での枠順および脚質の有利不利チェックを行うことで、精度の高い狙い馬を抽出することが可能。基準タイムをクリアした余力ラップ該当馬は1Fまでの距離延長を苦にしないので、期待値派からはマイナス評価される距離延長馬を狙えるのは「余力ラップ」の強みの一つ。
(競馬王チャンネルより)

「余力のある馬しか出せない優秀なラップ」だとお考えください。


「余力ラップ」は「基準ラップをクリアしている馬を評価する」ため、単にデータから導き出した理論かと思われるかもしれませんが、そうではありません。
少し長くなりますが、説明したいと思います。

あらゆる予想理論というのは、予想する側が競走馬のことを科学的に分析できない以上、文学的にならざるを得ないと思っています。
私のいう科学的分析というのは、一例を挙げると、競走馬の心拍数のことです。
平常時の心拍数や、レース後の心拍数の戻り方は重要だそうですが、予想家はそのデータを得ることはできません。競馬関係者のみぞ知るブラックボックスになります。
予想家が知り得るのは、結果から得られるデータを集計することくらいでしょう。
いわゆる統計です。予想家は仮説と統計的データを行き来することがどうしても多くなるかと思われます。
そのような状況の中で、競走馬を科学的に分析してくれている数少ない本が『競走馬の科学』になります。


これは「JRA競走馬総合研究所」というJRAの付属機関が出しています。
競走馬の能力向上・事故防止、病気予防と治療技術の開発、優秀な馬を生産する遺伝学的研究、より良い馬場を造るための馬場土木工学など、幅広い調査・研究を行っている機関だそうです。
本書の「レースにおけるペース配分」という章が「余力ラップ」の発想に役立ちました。

エネルギー効率的に理想とされるペース配分は「前半やや速く走り、後半やや遅く走る」ことだそうです。「前半と後半を同じスピードで走る」が次に効率が良く、「前半遅く、後半速く走る」が最も効率の悪い走り方だと読み取れました。
本書では世界レコードを出したジャパンカップのホーリックスが「理想」だと書かれてあります。
2006年に出版された本なので例がやや古いのですが、近年で言えば、桜花賞のソダシが理想形になるのではないでしょうか。

2021年桜花賞のラップ(いわゆる「高速持続戦」と呼ばれます)

ラップ12.1 – 10.8 – 11.2 – 11.1 – 11.6 – 11.2 – 11.2 – 11.9
ペース12.1 – 22.9 – 34.1 – 45.2 – 56.8 – 68.0 – 79.2 – 91.1 (34.1-34.3)

最も効率の悪い「前半遅く、後半速く走る」はどういうレースに多いか、といえば、圧倒的に新馬戦が多くなるでしょう。

「15-15」という調教方法があります。
「1ハロン(200メートル)を15秒平均のスピードで走る、または走らせること」です。
たしかnetkeibaで読んだのですが、これは丁度、有酸素運動と無酸素運動の中間に当たる速度だそうです。ということは、1F14秒だろうが13秒だろうが12秒だろうが、無酸素運動に突入しているのだと考えられます。
つまり、本番のレースでは全ての区間で「無酸素性エネルギー」(馴染みのない言葉でしたが、『競走馬の科学』で使われています)を消費しているのです。

それなら極論、「新馬戦は無駄に遅く走っているだけだ」と捉えて良いのでは?と私は考えました。
「無駄」というのはエネルギー効率視点で、競馬視点では「ゆっくり走らせて折り合いを覚えさせる」ことは重要です。
さらに「前半はハイペースだろうがスローペースだろうが、エネルギー効率的に考えれば、消耗度にそれほど差はないのだろう」とも考えました。
こうして後半ラップを重視するという発想に至ったのです。

(実際は前半のペースも重要で、やはり前半速ければ相応に後半が遅くなります。前半遅ければ後半も速くなりやすくなっています)

それまでに他の人から「後半ラップがハイレベル戦かどうかの目安になる」と聞いたことがありました。スピード指数を用いていても「どうもスピード指数通りの結果になってくれない。どうしてだろう?」と感じてもいました。2022年末に書いた『「永遠の初心者を脱する!」ための競馬思考』でも後半ラップの重要性について書きました。
なら一度、自分が書いた通りに後半ラップだけをもっと重視して予想してみよう!と実践してみたところ、これが想像以上に有用だと気づいたのです。

タイミングも良かったと思っています。
2019年、サートゥルナーリアとグランアレグリアがクラシック初戦を休み明けで勝利。
未勝利戦におけるスリーアウト制も2019年に始まりました。休み明けだからといって、仕上がり途上で出走させにくい状況になったのです。
休み明けから仕上げる技術が競馬サークルで完成してきたこと、休み明けから仕上げざるを得ない状況になったことによって「ラップ≒能力」がそのままレース結果に反映されやすくなりました。

2018年以前も余力ラップが通用するのかどうか調べてもみたのですが、「通用するが、年によっての成績差が大きく、回収率の取れない年もある」という結果になっています。
そもそも後半ラップだけで回収率が取れるなら、すでに誰かがTARGETで調べて公にしていて、有名になっていておかしくなかったはずです。そうなっていなかったのは、やはりタイミングに尽きると思っています。
拙著を読めば、「この極めて単純な事実を私なんかが公にして良いのだろうか……」と困惑している様子が伝わるかと思います。

そういう訳なので「ただデータを取ってみたら有用だった」という理論でないことはご理解ください。

続いては「基準ラップ」について。

「理論」と「データ」はコインの表裏。
両方揃ってこそ、意味あるものになると思っています。
一見、正しいことのように聞こえても、データを取ってみるとそうではないことが多々あるのが競馬予想です(くれぐれも変な人に騙されないでくださいね。私が正しいというつもりはありませんし、捉え方によって答えが複数ある場合もよくあります)。

あとはデータを正しく取れば良いだけ。
競馬王掲載と立川サロンアネックスに顔を出したことで、本ブログのアクセス数も増えて「ダラダラしていては競馬予想家として生き残れない!」とかなり意識するようになりました。
そのため本記事を書いて、余力ラップの説明および、基準も改めて確認・修正いたしました。
厄介なのが、TARGETはデータの取得方法によって結果が大きく変わってしまう点です。
気をつけたのは以下の点になります。

①データは2019年の頭(スリーアウト制導入年)まで遡って取得する。
②好走率・回収率ともに確保できる数字であること。「レース映像チェック」と「今走条件での枠順および脚質の有利不利チェック」を挟むことでプラスにできるだろう水準にしています。
③距離延長成績が良い、もしくは悪くない水準であること。
④勝ち馬だけでなく、僅差負けの馬も結果を出している基準であること。

⑤該当馬が少なくなりすぎないこと。
⑥細かすぎても分かりにくいので、なるべくは競馬場や距離で変わらない数字になること。

注意した点は以上になります。
芝に関しては変更ありません。元々、ほぼ完成している基準だと思っていました。
変更点は「L1基準における僅差負けの定義」と「ダート」になります。L3は元々、「全馬の数字が公になっている上がり3Fは皆にバレていて馬券的妙味が少ないだろう」と考えて数字を設けませんでした。ただ、芝は「L3・34.4秒以内」で有効値になりそうです。載せるかはもう少し様子見します。

※基準ラップ
1000mは全て除外。
僅差負けの定義は芝で「0.3秒差以内」、ダートで「0.5秒差以内」。
L1基準の僅差負けは、芝・ダートともに「0.2秒差以内」で統一。

2.3歳(芝)

L1L2L3L4L5
11.4秒以内
※距離不問
22.7秒以内
・1200mは3F通過35.2秒以内・1400mは3F通過35.5秒以内
上がり差で2位に0.5秒以上付けている45.9秒以内・1500m以上に限る
※距離が伸びれば伸びるほど評価できる
58.2秒以内・1500m以上に限る。
※距離が伸びれば伸びるほど評価できる

2.3歳(ダート)

L1L2L3L4
12.3秒以内
※距離不問
1150-1400mは24.3秒以内
1600m以上は24.6秒以内
※東京1400-1600mは多めに出て精度が下がるので他基準と合わせて確認する。
上がり差で2位に0.5秒以上付けている50.0秒以内(1700m以上・昇級戦の場合は延長不利・同条件なら延長オッケー)
東京ダート1600mは49.7秒以内

2 件のコメント

  • 昨晩のLINEでのMeetingには、急な仕事で参加出来ず、残念😢でした。朝、LINEとブログを読みました。改めて見ると、腑に落ちる理論だなと納得しました。マグさんの予想は、ネット競馬と立川競馬サロンのアネックスだけですか?(間違えていたら、すみません)もし、他にもありましたら、教えてください。マグさんの理論を更に突き詰めたいとおもっています。宜しくお願いします。

    • お仕事お疲れさまです。
      DMでもコメント欄でもお答えしますから大丈夫ですよ!
      腑に落ちる理論とのことで嬉しいです!単純に優秀なラップタイムを見てるだけじゃん!と思われるのは納得いかない(笑)
      ぜひ詳しくなって広めてください!理論はシェアされるべきだと考えてるし、自分の力だけで作ったもんでもないんで、アップデートして自分のものにしていただいて結構です。
      自分の予想はnetkeibaとアネックスとブログだけですね。ごく稀にお仕事いただいて競馬王などでも出したりしますが、イレギュラーです。
      個別ラップが出る時代になったら商売あがったりなんでまだ出ないことを願っています笑

  • コメントを残す

    メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です