『増補改訂版 競馬に強くなる調教欄の取扱説明書』井内 利彰 (著)

「調教捜査官」の異名をとる井内氏の本。
9割以上の競馬ファンが調教欄を無視しているという。
それはつまり、「調子」というファクターをほとんど無視しているに等しい。

趣味でランニングをしていると「調子」の重要性がよく分かる。
疲れて調子が悪い時は、良い時の8割の力も出ない。
また、マラソンに出てみると、一人で走っている時以上のペースが自然と出る。速すぎるという自覚もないから、スマホアプリでペースを計算しなければオーバーペースで自滅するだろうと感じるほどだ。
併せ馬やレースだと、単走調教よりもオーバーペースになりやすい馬の気持ちがよく分かった気分になる。

おそらく、ウサイン・ボルトですら8割の状態では金メダルを取れないのではないか。人間はレースに合わせて体調を自覚的に整えられるが、馬はそうでないのだから状態の重要性はより増すだろう。

調教欄を見ない理由の多くは、おそらく「見方が分からない」からだと思う(自分がそうだった)。確かに坂路やウッドチップコースの時計の出方は、レースと全く違うから戸惑うのはよく分かる。
これらの点に関しても、井内氏は丁寧にこの本で解説している。
以下に、その方法の例を挙げる。

  • 前走時の時計と比較する
  • ベスト時計と比較する
  • 追い切り時計をラップで見る(※「全体時計」と「ラスト1F」のバランスを見る)
  • 併せ馬の内容の評価指標(「格上先着」「追走先着」に注目)
  • 一週前追い切りの重要性(重賞にもなるとローテーションが決まっているから、計算した上で追いきっている)
  • ジョッキーが調教に乗る時はどういう時か?(基本的には「買い」)

他に気になりそうなところでは、どのくらいの時計が出ていれば速いのか遅いのかが本書には書いていない。今はネット上でも調教の水準時計がアップされているので、そうしたサイトを参考にすれば良いと思う。
個人的にオススメなのは、netkeibaの調教欄。
見るには有料会員になる必要があるが、上位5%の時計なら赤、上位20%の時計なら薄い黄色と、一目で速いか遅いか分かる仕様になっている。
そうして見ている内に、自然と調教タイムは覚えていくだろう。

あとは調教VTRの見方。
これについても簡単に書いてあるが、それでも素人の自分にはちょっと分からない。
なので、井内氏の重賞予想は絶対に見るようにしている(netkeibaの「ウマい馬券」や競馬予想TVで見られる)。

最後に。
井内氏の理論に「調教適性」「ダブル最速」といったものがある。
ずっと「意味があるのか?」と思っていたが、長年見てきてようやくピンと来るようになった。
特に「調教適性」(レースの条件によって、合う調教方法も変わるという理論)。
スピリンターとステイヤーでは追い切り時計の出方が全く違う。一流のスピリンターはとにかく坂路でバリバリ時計を出してくる。だから、スプリンターズステークスの「調教適性」は「坂路」なのである。

調教を予想ファクターに入れていない人は必読!と言いたいくらいオススメの一冊。