「9月9~10日の中山競馬場の風&エアレーション・シャタリング作業の行われた馬場の変化について」

 以前のコラムで風の影響について書きました。9月9~10日の中山競馬場は直線追い風の影響が強く出ていたように思うので、再度、触れてみたいと思います。

 直線追い風の影響はラップにもきちんと表れます。この土日は急坂のL1部分で失速しないどころか、加速しているレースが目立ちました。L1部分が急坂になっている中山で加速ラップは出にくくなっています。土曜5R新馬戦はL1が11.1秒。日曜5Rの新馬はL1が何と10.7秒!調べてみたところ、中山芝のL1が10.7秒以内だったのは、2012年3月31日の山吹賞(勝ち馬エタンダール)の10.5秒のみ、でした。

 この2012年3月31日の山吹賞は追い風で平均風速7.0m/s、瞬間最大風速で16.8m/sと相当な強風でした。風速10m/sを超えると、傘を差せないレベルだそうです。ちなみにレースは1000m通過67.5秒の超スローペースでしたが、これは向正面が強い向かい風になっていたからだと考えられます。これだけの風が吹けば、馬でも相当な影響を受けるのでしょう。L2は10.8-10.5と、時計の出やすい競馬場と比較してもかなり速くなっています。勝ち馬エタンダールは次走、青葉賞で10番人気2着。その後は怪我もあって伸び悩みましたが、まともなら重賞を勝てた馬なのではないでしょうか。他、4着のステラウインドがオープン特別を勝ち、重賞でも連対歴があります。それなりに評価はできるレースだったと思いますが、やはり風の影響は割り引きが必要ですね。これが無風のレースなら余力ラップとして非常に高く評価・実際に出走馬のその後も大活躍していたと思われます。

 せっかくなので調べ方についても簡単に説明しておきます。「気象庁 過去」でググると「過去の気象データ検索」がトップに出てきます。地点は「千葉>船橋」(風速観測している地域は限られています。中山競馬場から最も近いのが船橋だと思われます)を選び、「2012年」「3月」「2012年3月の日ごとの値を表示」「31」をクリック。その後、「10分ごとの値」をクリックすると2012年3月31日の時間毎の風速・風向きを確認できます。パソコンもスマホも調べ方は同様です。ご参考ください。

 では、9月10日の5Rの新馬戦はどの程度の強風だったのでしょう。調べてみたら、あら意外、平均風速2.6m/s・瞬間最大風速5.9m/sに留まっていました。9月9日の5Rは平均風速3.1m/s・瞬間最大風速で6.4m/sなので、土曜の方が強かったのです。9月10日の5Rで勝ったシックスペンス、上がり最速だった2.3着のアタラヨとオーヴァーザトップまでは高く評価して良さそうです。

 土曜も風が超強かった訳ではないので、5Rで勝ったフォルラニーニは高く評価しても良いでしょう。この日、他に余力ラップのL1基準をクリアしたレースは、芝では7R・キョウエイブリッサ(11.1秒)、9Rアスター賞・キャットファイト(11.3秒)、ダートでは4R・グラシリティ(12.3秒)、6R・ルーラルハピネス(12.2秒)、になっています。日曜は5R・シックスペンス(10.7秒)以外には、10R・ファロロジー(11.4秒)のみ。やはり日曜5Rが際立ちますね。上記のレースはチェックしておくことをオススメいたします。

 上がりが出たもう1つの要因は馬場でしょう。紫苑ステークスで1.58.0、京成杯オータムハンデで1.31.6と相当速い時計が出たので超高速馬場だったと判断しています。本コラムで注目したいのは、馬場の変化です。

 近年、エアレーションやシャタリングの作業が行われるようになりました。今開催の中山は両方、阪神はシャタリングのみ行ったとJRAのHPに書いてあります。「エアレーション」は「バーチドレンと呼ばれる機械で芝に穴を開けて路盤をほぐし、通気性や排水性を向上させ、芝がより育つ環境を整える」作業だそうです。対してシャタリングはより新しい作業だそうです。「シャタリングマシンには約40cmの刃が数枚ついていて、この刃が路盤の中の土を切り裂き、使用して硬くなった路盤を揺さぶりほぐす」とのこと。バーチドレンだと20cmくらいまでしかほぐせないのですが、シャタリングマシンは約30cmまでほぐせます。また、縦方向だけでなく横方向にも揺さぶりほぐすことができるそうで、より柔らかい馬場造りに貢献しているそうです。興味深いのが、排水性を向上させること。中山は金曜に100ミリ程度の雨が降ったと聞きましたが、土曜は重馬場スタートで、途中からやや重まで回復しました。以前よりも排水性を高める作業の方法が確立されているのかもしれません。

 立川サロンでは「馬場が踏み固まる」という表現をよく使います。エアレーション・シャタリングで柔らかくなった馬場が、馬の蹄跡によって固められることを指します。立川さんもよくツイートしていますね。実際のところ、どうなのかが『馬場のすべて教えます』で書かれてありました。以下、インタビューを抜粋します。

「開催が進み後半になると、差しが決まっていた馬場が先行有利に変わることがあります。あれは馬場が締まってきているのですか?」という小島友実さんの質問に対して、馬場造園課長の方が「締まるというより、(柔らかくする前の)元の状態に戻ることです」と回答しています。なるほど、踏み固まるという意味では同じですが、厳密には元に戻るということなのだと理解できました。

 今開催の中山は、土曜は内枠がそれほど有利に映りませんでしたが、日曜後半の9.10.11Rは完全に内枠先行有利に変わったように思います。阪神も8.9.11Rは内枠先行有利傾向が強まったように感じました。中山・阪神共に、クッション値は土日で全く変化がありませんでしたが、後半にはクッション値も高まっていたのかもしれません。馬場が踏み固まる(≒元に戻る)タイミングを予想して馬券に活かしてみてはいかがでしょうか。

参考文献 小島友実(2015)『馬場のすべて教えます ~JRA全コース徹底解説~』